評価:(70点)
一言感想
生と死の狭間で揺れる気持ちを丁寧に描いた良作。
あらすじ
高校生の杉崎友也、春川あおい、小林涼の3人は、それぞれ家族や友人、将来について悩みを抱えていた。インターネットを通じて知り合った彼らは、花火をすると現れると噂される若い女性の幽霊"サマーゴースト"に会いに行こうと思い立つ。
Wikipediaより引用
死に向かい生を得る
本作は小説『君の膵臓を食べたい』の装画や劇場版『名探偵コナン』シリーズのイメージボードを手掛けたことで知られるloundrawの初監督作品。
脚本は『GOTH リストカット事件』で本格ミステリ大賞を受賞した小説家の乙一が担当している。
40分映画
本作はネットで知り合った3人の高校生がサマーゴーストと呼ばれる若い女性の幽霊に会いに行くところから話がスタートする。
3人のバックボーンやサマーゴーストについては後々明るみになっていくが、40分という短い尺のため、必要最低限の情報しか出していない。
それ故に感情移入がしにくいという難点がある。
ただ、本作はキャラに感情移入するというよりも第三者目線で見るという楽しみ方が合っているように感じたので、キャラに深みがなくても問題はなさそうだ。
むしろ必要最低限の情報しか出さなかったからこそ、多くの人に起承転結がしっかりとしていてると思わせることができたのだと思う。
死を望む者と避けられなかった者
本作では4人の登場人物を中心に物語が進んでいく。
ネットで知り合った3人の高校生(杉崎友也・春川あおい・小林涼)+サマーゴーストこと佐藤絢音の4人だ。
後に佐藤絢音は死に近づいた者にしか見えないことがわかり、3人のバックボーンと絢音について明かされていく。
- 友也:絵を描くという本当にやりたいことをさせてもらえないが故に生きている意味がわからない
- あおい:いじめられていて生きるのが辛い
- 涼:病気で余命あとわずか
- 絢音:自殺と思われていたが実際は他殺
ここでポイントになるのが友也・あおいが死を望んでいるのに対し、涼と絢音は死を避けられない(なかった)ということだ。
ラストで涼は寿命を全うし、サマーゴーストになったことが判明する。
サマーゴーストが死を望んでいた友也とあおいに良い影響を与えたことは本作を最後まで見た人ならお分かりかと思う。
つまり、本作におけるサマーゴースト(死を避けられなかった者)は死を望む者を救済する役割を担っていたのだ。
死を避けられなかった者は生きるという選択肢すら与えられなかった者。
そんな彼女・彼が生きるという選択肢がある者を生の道へと導いていく。
世の中には死は救済という考えがあるが、本作はその考えを真っ向から否定する作品だった。
死体探し
埋められた自分の死体を探したいという絢音の願いを叶えるため、友也は必死に死体を探す。
正直、何事にも冷めた感じの友也がなぜ絢音の死体探しに奔走したのかがよくわからなかった。
そして死体探しを経たことで友也・あおい・涼が何を得たのかも不明だ。
また、小説版では死体が母親の元に返却されるが、グロテスクすぎるからか映画版では玄関に絢音が付けていたブローチを置く演出に変わっていた。
はっきり言って恐怖であるw
見方によっては母親に対する犯人からの最後通告だ。
これを感動的にまとめていたものだから、死体探しの結末については違和感がありまくりだった。
小説版
本作をより深く楽しみたいという人は小説版を読むのがオススメだ。
小説版では映画で語られていないディティールを補完することができる。
例えば、友也・あおい・涼は自殺掲示板で知り合ったということは作中では語られていない。
そして、あおいと涼が交際に発展したことも端折られている。
これらはいづれも映画の断片的な情報で考察可能ではあるが、なかなか難しい。
故に足りない部分を小説で補った後、映画を再度見るというのが本作の正しい楽しみ方なのではないかと感じた。
まとめ
荒削りな部分があったことは否めないが、作画・脚本ともに高クオリティで個人的にはかなり楽しめた。
BGMも素晴らしく、美しくも儚い本作の作風にピッタリで涙をそそられる。
未視聴の人はぜひ見てほしいし、すでに視聴した人も小説版を読んだ上で再度視聴してほしい。
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